坂元裕二さん脚本の映画『ファーストキス 1st KISS』
『最高の離婚』や『大豆田とわ子と三人の元夫』が大好きで、しかも松たか子さん主演
しかも監督が『海に眠るダイヤモンド』の塚原あゆ子さん。
これはもう見るしかないでしょ、と公開前から楽しみにしていた本作。
公開直後から興行収入ランキングもトップ入りで、評判上々の作品をようやく鑑賞することができました。
そこで今回は、映画『ファーストキス 1st KISS』ネタバレ考察。
タイプループ後のカンナはどうなったのか?などを考えていきたいと思います。
最後までお付き合いいただけたら嬉しいです。
映画『ファーストキス 1st KISS』とは

映画『ファーストキス1st KISS』は脚本家の坂元裕二さん×塚原あゆみ監督がタッグを組んで制作されたラブストーリー。
主演の松たか子さんと松村北斗さんの共演も絶賛の嵐で、公開初週から興行収入ランキング1位を独走し続けていました。
ストーリーは恋愛映画のタイムループものですが、そこは脚本家・坂元裕二さん。
まるで自分たちを見ているかのような日常あふれる生活に、ファンタジーというスパイスを加えて、分かる分かる!という共感を抱かせてくれるのはさすが
何度でも見返したくなる考察しがいのあるストーリーも魅力のうちだと思います。
公開日 | 2025年2月7日(金) |
上映時間 | 124分 |
監督 | 塚原あゆ子 |
脚本 | 坂元裕二 |
キャスト | 松たか子/硯カンナ・松村北斗/硯駈 |
映画『ファーストキス 1st KISS』あらすじ(ネタバレなし)

冷めきった関係に終止符を打とうとした当日、事故で夫(硯駈)を亡くした硯カンナ。
偶然トンネルの崩落に出くわしたカンナは、15年前に初めて駈に出会った日にタイムループします。
過去に戻ったカンナは15年前の駈と出会い、やはり彼が好きだと再認識。
過去に自分が放ったひょんな一言から未来が変えられると確信したカンナは、駈を救いたいと奮闘します。
そして辿り着いた一つの答え。
それは、自分が駈と結ばれなければ未来が変えられるというもので…。
映画『ファーストキス 1st KISS』ネタバレあらすじ

15年の結婚生活の末、離婚を選択した硯カンナと硯駈。
「君は柿ピーの柿が好きで、僕はピーナッツが好き。好みが違う僕たちには生存法則上の必然性がある。一生一緒にいたい」
そうして始まった二人の生活はいつしかすれ違い、こたつの上にも柿ピーのピーナッツだけが残るようになっていた。
離婚届を提出しようとしていた当日、硯駈は会社帰りの駅のホームでベビーカーが線路に落ちるのを目撃。
線路に降りて赤ちゃんを救出するのと引き換えに命を落とします。
事故から約5か月後のクリスマスイブ。
会社からの呼び出しで車を走らせていたカンナは、トンネルの崩落事故に出くわします。
その瞬間に時空がゆがみ、辿り着いた先は15年前の夏。
カンナが駈と初めて出会う、まさにその日でした。
15年前の駈に出会ったカンナは動揺してすぐに帰宅しますが、もう一度会いたいと崩落事故現場へ。
二度目の過去の駈との再会を果たします。
過去の駈とのデート中、トウモロコシの話題で「皮ごと茹でた方が美味しいらしいですよ」と伝えるカンナ。
駈との楽しいデートを過ごして帰宅すると、過去が変わっていることに気付きます。
過去に戻る前には皮をむいて茹でていたはずのトウモロコシの写真が、過去から帰ると皮ごとトウモロコシを茹でている写真に変わっている?!
自分が過去に戻ることで未来を変えられると確信したカンナは、過去の出来事を変えて駈が死なない未来を作りたいと考えます。

45歳の現在のカンナと過去の20代のカンナが同時に存在することはできない(20代のカンナが側にいると過呼吸で動けなくなってしまう)
タイムループで過去を変えられるのは、駈が20代のカンナに出会うまでの7時間だけ。
カンナは駈が事故当日にした行動を整理し、過去に戻ってその行動を取らないように働きかけます。

何度タイムループしても現実を変えられないカンナ。
唯一、うまくいった駈生存の未来は『非常ボタンを押す』という行動でした。
しかしそれは、死傷者62名を出す電車事故を引き起こす世界線に成り立つもの。
さすがにそれはダメ。
最後に見つけた、きっとうまくいく方法。
それは、カンナが駈と結ばれなければ未来は変わるというもの。
トンネルの崩落現場もあと一日で整備される…タイムループもあと1回?
過去に戻り、駈のことが好きな大学教授の娘と駈を結びつけようと奮闘します。
しかし、ことごとく失敗。
それどころか、駈を最悪な形で傷つける結末を迎えます。

奇跡的に、もう一度タイムループを果たしたカンナ。
過去の駈と一緒にかき氷屋さんへ向かいますが、その時に『2024年7月10日 スズリカケル死亡』と書かれた付箋を落としてしまいます。
それを拾った駈からの質問に真実を隠し通せなくなったカンナは、駈の未来を変えたいと何度もタイムループしていたこと。
自分たちが15年の結婚生活をすれ違いの末に終わらせようとしていたことを告白します。
それを聞いた駈は「離婚したくない」と一言。
そんな駈にカンナは、自分と出会わない人生をすすめます。
別の人生を歩むことで駈の未来を変えたい。
しかし、駈の想いは別のところにありました。
たとえ自分が亡くなるとしても、いま目の前にいる15年後のカンナに出会える人生を歩みたい。
「僕にやり直すことがあるとしたら、それは君と結婚していた十五年間だよ。死んでもいいから、結婚生活をやり直したい」
駈は自分の未来が変わるように善処することを誓って、タイムループしてきたカンナと最期の別れを告げました。

ここから物語は駈視点へ。
15年後の未来を知っている駈は、カンナとの結婚生活を大切に紡いでいきました。
自分が亡くなるその日まで。
寝室の同じベッドで眠って、お互いに思いやりを忘れずに。
亡くなる当日、テーブルに添えられていたのは駈が買ってきた600円の花束。
「今日さ、トースターが届くから」と、カンナのためにトースターを注文したことを告げる駈。
昨夜、やりかけの立体四目並べに一手を打って。
いつも通りの日常をあえて続ける駈。
「じゃ、行ってきます」

駈が亡くなって、一人トースターでパンを焼くカンナ。
「(新しいトースターで焼いても)あんま変わんないよ」の言葉に、返す人もいなくて。
ひとりでは広すぎるソファに居心地の悪さを感じながら。
ふとカレンダーがそのままだったことに気付いたカンナは、カレンダーに隠されていた駈からの手紙に気付きました。
それは自分の未来を知っていた駈からのラブレター。
カンナがタイムループしなければ届くはずのなかった駈からの手紙。
愛情いっぱいの駈からの言葉に、もうカンナがタイムループする理由はなくなりました。
もう一つ変わった未来。
タイムループ前には自分で注文していた三年待ちの餃子。
新しい未来には駈が注文してくれた三年待ちの餃子に…未来はたしかに変わっていたのでした。
映画『ファーストキス 1st KISS』感想

映画『ファーストキス 1st KISS』は、カンナと一緒になることで自分が亡くなることを知った駈が、それでもカンナと生きる道を選ぶ物語。
あれ?この構図、どこかで見たことがあるぞ??
そう、構図は『いま、会いにゆきます』だ。
でも、そこまで同一視されないのは脚本とスタッフの力ゆえか、まったく別のストーリーとして仕上がっているのがすごいところだと思います。
『いま、会いにゆきます』がファンタジー色の強いラブストーリーだとしたら、『ファーストキス 1st KISS』は日常生活にファンタジーを織り交ぜた作品といったところか。
正直、ファーストシーンの駈の死は衝撃でした。
交通事故とかそういうものだと思っていたら(ある意味、交通事故か…)まさかの。
そして何事もなかったかのように流れるカンナの生活。
冷え切った夫婦生活で、夫が亡くなったことにも大して感情が動いていないようなカンナ。
それが過去に戻るたびにキラキラ輝いて、駈を助けたいと奮闘するようになる。
ここでもう、松たか子さんの可愛さ爆発です!
恋愛が得意とは思えないカンナが、どうすれば駈を振り向かせることができるのか奮闘する。
駈とカンナは出会ったら惹かれてしまう運命だけど、恋をしようと思ってしたわけじゃないから、何をしたら好かれるのか分からない。
淡々としてはっきりした性格なのに、ときおり垣間見える「これは大変だぞ」などキュートな言葉遣いや行動がチャーミング。
駈が好きになっちゃうのが分かります(笑)
それに対する駈も考古学男子炸裂で、冷静だけど好きなものには少年っぽさを覗かせてみたり、恋愛慣れしてないのに急にドキッとする発言をしたり。
「二人でパン屋さんはじめましょう」のカンナに、
「これ以上僕をどきどきさせないでください」の駈。
それ、もう一回ちょうだい!になったのはカンナだけではないはず(笑)
そしてやっぱり坂元脚本の言葉センスが素晴らしい。
『過去も未来もミルフィーユのようにあって、赤ちゃんのわたし、おばあちゃんのわたしは同時に存在するんです。つまりわたしには孫がいます』
時空間をミルフィーユに例える描写が素敵。
『君は柿ピーの柿が好きで、僕はピーナッツが好き』
印象的なセリフをピリリと利かせてくるのがさすがですよね。
そして『好みが違う僕たちには生存法則上の必然性がある』
この生存法則上の言葉に、『花束みたいな恋をした』を思い出しちゃいました(笑)

そして極めつけは、坂元脚本の奥義!手紙
ラストの展開に、これは来るぞ…泣かせに来るぞ…と思ってたんです。
そして見事に来て、泣かされた(笑)
『最高の離婚』で分かっていたはずなのに。
もうね、この手紙はずるいですよね。
こんな風に15年間見つめ続けてくれていたと知ったらやられますよね。
あっ、でもシナリオブックで読み返してみると、駈はカンナへの手紙でタイムループのことを言及していません。
15年前の出来事を匂わせてはいるものの、実際に何があったか告げていない。
過去を知らないカンナにして見れば、
駈は亡くなることを知っていたのに、どうして死よりも自分を選んでくれなかったんだろう。
15年前に何があったんだろう?タイムトラベル??
と疑問符も残る手紙だったんじゃないかなぁ…と考えてしまいます(苦笑)
映画『ファーストキス 1st KISS』考察

映画『ファーストキス 1st KISS』はファンタジーを含んだラブストーリーですが、何度も見返して想像したくなる余地もあります。
そこが坂元脚本の魅力でもありますよね。
そもそもカンナは駈と離婚したかったのか?
冷え切った関係の末に離婚を選択した駈とカンナ。
でも、タイムループ前のカンナも本当は離婚まで気持ちが踏み込めていなかったのだと思います。
離婚届を書いたものの、出社する駈を引き止めようとする描写。
カンナの夢でもそれは出てきて、夢の中のカンナは離婚について『本当は…』と呟く。
本当は『離婚したくなかったんだよ』が続くのでは。
さらにカンナは二度目のタイムループから現実に戻ったときも「だって、また会いたかったんだよ…」と呟きます。
一方、駈はシナリオブックにある当日の心情にも、カンナとの記憶に触れる心理は描かれていません。
本当の意味で気持ちは冷え切っていたのだと思います。
カンナが博物館に行った世界線で駈は生きてる?

駈とカンナが出会わない世界線を作ろうとして、駈を傷つけてしまったカンナ。
現実に戻ったカンナが博物館に出向くシーンが描かれます。
このときに駈は生きているのか?
残念ながら、この世界線でも駈は亡くなったのだと思います。
映画では、博物館で「ごめんね」と呟くカンナ。
シナリオブックでは現実に帰るまえ、傷つけた駈の背中を見送りながら「…ごめん」と呟きます。
その後現実の2024年12月30日博物館へ。
駈が遺していた博物館の入場券を持っているとあります。
”遺していた”ということなので、過去で駈を傷つけたけど結局カンナと結婚し、駈が亡くなった世界線なのだと思います。
駈が助かる世界線はなかったのか?
駈が非常停止スイッチを押した世界線(死傷者62名の京総線車両転覆事故)には存在したんだと思います。
でも駈が助かる=他の誰かの犠牲が付きまとうのではないかと。
正直、過去にタイムループした時に事故の引き金になったベビーカー親子を探して、事故当日に出歩かないように伝えていたらどうなったんだろう?と興味はあります。
ただ、そうしてもきっと別の形で誰かの犠牲が伴うんだろうなと。
それは駈が望まないことでもあるので難しかったかもしれません。
駈は29歳のカンナを愛せたのか?

『十五年後の君に会いたいから、十五年前の君に会いに行く』
45歳のカンナに惹かれた駈。
考古学者で若さに重きをおいてない駈が29歳のカンナの思考に満足できるはずがない、という面白い意見を見かけました。
たしかに29歳のカンナといながら『まだまだ考えが若いなぁ~』とか思いながら駈は過ごしていたんでしょうか?
29歳のカンナが知ったら、ぶっ飛ばしに行きたくなると思います(笑)
でもたぶん、駈は45歳のカンナにも惹かれたし、29歳から一緒に過ごしていたカンナにも、45歳のカンナに想いを馳せながら可愛いなぁと見守っていたのでは??
あっ、これは29歳のカンナにとっては屈辱か
でも、駈とカンナは理屈なんかじゃなくて、出会ったら何度も惹かれあってしまう関係。
それならば年齢も関係なく、45歳のカンナも好きだったし、29歳のカンナにも惹かれてしまうのではないかなと思いました。
それこそソウルメイト的な感じで惹かれあうものがあったんじゃないかなと思います。
駈が変われば未来が変わる=夫だけが悪い?
結婚してから15年後にピリオドを打った駈とカンナ。
でも、カンナがタイムループして、15年前の駈だけが離婚したくない一心で努力すると夫婦は円満な結末を迎える。
ってことは、駈だけが変わればよかった=駈だけが悪かったということ??
カンナだって自分は好きな仕事をしながら、駈が夢を諦めて我慢を強いられていることには気付こうとしなかったわけで…納得いかないですよね。
でもこれは、駈だけが悪いわけでもなく、双方に悪いところはあった。
だけど駈が離婚を知ったことで、結婚生活を続けたいと強い意志をもって生活したから未来が変わったのだと思います。
カンナは最期のタイムループで「好きなところを発見し合うのが恋愛でしょ。嫌いなところを見つけ合うのが結婚」と話します。
でも、結婚でも嫌いなところではなく好きなところを見つけ合えたら。
結婚生活後も、駈がカンナの好きなところを見つけ続けてくれていたら、カンナもその想いを無下にはできなかったと思います。
実際、駈もカンナも強烈に惹かれあって結婚した。
愛は冷めても、できることなら相手を救いたいと思えるくらいの情をもてるほどの関係。
それなら駈が結婚生活を続けたいと意識して向き合ったなら、カンナとの生活を変える力があったんじゃないかと思います。
それと同時に、15年間という期限付きだったのも大きかったかもしれない。
駈は15年後に自分が死ぬことを知っていた。
期限付きだと分かっているからこそ、我慢できた部分もあったかもしれない…(苦笑)
これがもし、15年後も駈が生きていたら続けられるのかな?
いや、でも習慣の法則で15年も続いたものはそのまま継続するのかもしれない。
なんて、色々想像してしまいます(笑)
最期のタイムループ後、崩落事故で45歳のカンナは亡くなった?

2024年12月29日。
首都高三宅坂トンネルが明日には復旧する見込みとテレビが告げます。
「あと1回くらいかな?」と呟くカンナ。
でも、教授の娘と駈を結びつけようと向かったタイムループでは、駈に心にもないことを伝えたあげく傷つけただけで失敗に終わってしまう。
そこでタイムループは終わりのはずなのに、その後もう一度タイムループしている。
つまり、現実に帰る世界線がなくなり、45歳のカンナは崩落事故で亡くなることが確定したのだと思います。
だからこそ、その後の物語視点は駈に切り替わり、45歳カンナは登場しない。
そう考えると45歳でカンナが亡くなることも変えられない運命なのか?
駈の死が変えられない=未来は変わらないということなら、カンナのトンネル崩落事故死も変えられない運命なのかもしれません。
でも、願わくば駈との結婚生活が変わったことでカンナの世界線も変わったのだと思いたい。
45歳のカンナの努力が実を結び、駈の努力が結婚生活を継続させ、その結果としてカンナを生存させる世界線が生まれた。
駈からの愛情を一心に受けたカンナは、もう二度とタイムループすることはないはずだから。
そう願います。
まとめ
映画『ファーストキス 1st KISS』ネタバレ考察。
タイプループ後のカンナはどうなったのか?などを考えてきました。
観終わったあとも繰り返し考えて、日常を大切に紡いでいきたいと思える映画『ファーストキス 1st KISS』
特にシナリオブックも合わせてみると、言葉の選び方のセンスに溢れていることに改めて気付かされて物語が深まります。
読んでいると映画のシーンが浮かんでくる場面。
ここで伝えていた言葉の意味はこうだったのかも?と見えてくる部分もあって面白かったです。
実は巻頭16ページにわたってカラーページが含まれていたのは嬉しい誤算(笑)
巻末に松たか子さんと坂元裕二さんの寄稿が掲載されていて読み応え抜群。
一時期は在庫切れになるほどだったのも納得のシナリオブックです。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。